最近「ゼロから作るDeepLearning」を読み始めました。
この本ではプログラミング言語としてはPythonを使用していて、配列や行列の演算にはNumPyが使われています。第1章ではNumPyでの基本的な演算について説明されているのですが、その内容をRubyのNumo::NArrayと、Ruby標準クラスのMatrixでの演算と比較してみました。NumPyでの内容は書籍記載の内容と同様に実行しています。Rubyのバージョンは 2.3.1p112 です。
使用準備
NumPyは外部ライブラリなのでimportして使用します。
>>> import numpy as np
Numo::NArrayを使用するにはまずgemをインストールします。
$ git clone git://github.com/ruby-numo/narray
$ cd narray
$ gem build numo-narray.gemspec
$ gem install numo-narray-0.9.0.3.gem
そしてrequireでロードします。
irb(main):001:0> require 'numo/narray' => true
Matrixは標準クラスですが、requireでロードする必要があります。
irb(main):001:0> require 'matrix' => true
配列の生成
NumPyで配列を生成するには np.array() メソッドで引数に配列を渡すと numpy.ndarray クラスの配列が生成されます。
>>> x = np.array([1.0, 2.0, 3.0]) >>> x array([ 1., 2., 3.]) >>> type(x) <class 'numpy.ndarray'>
Numo::NArrayでは下記のようにして配列を生成できます。
irb(main):002:0> x = Numo::NArray[1.0, 2.0, 3.0] => Numo::DFloat#shape=[3] [1, 2, 3]
データの型は自動的に判別してくれるようですが、下記のようにすることで明示的に型を指定して生成することも可能です。
irb(main):024:0* x = Numo::DFloat[1, 2, 3] => Numo::DFloat#shape=[3] [1, 2, 3]
Matrixの場合は下記のようになります。
irb(main):002:0> x = Matrix[[1.0, 2.0, 3.0]] => Matrix[[1.0, 2.0, 3.0]]
算術演算
NumPyでの算術演算の例は下記の通りです。
>>> x = np.array([1.0, 2.0, 3.0]) >>> y = np.array([2.0, 4.0, 6.0]) >>> x + y array([ 3., 6., 9.]) >>> x - y array([-1., -2., -3.]) >>> x * y array([ 2., 8., 18.]) >>> x / y array([ 0.5, 0.5, 0.5]) >>> x / 2.0 array([ 0.5, 1. , 1.5])
NumPyでは要素数が同じ配列での演算は各要素に対して行われ、配列と単一の値での計算の時にはブロードキャストの機能によって、単一の値と配列の各値との演算が行われます。
次に Numo::NArray での例です。
irb(main):026:0* x = Numo::NArray[1.0, 2.0, 3.0] => Numo::DFloat#shape=[3] [1, 2, 3] irb(main):028:0> y = Numo::NArray[2.0, 4.0, 6.0] => Numo::DFloat#shape=[3] [2, 4, 6] irb(main):029:0> x + y => Numo::DFloat#shape=[3] [3, 6, 9] irb(main):030:0> x - y => Numo::DFloat#shape=[3] [-1, -2, -3] irb(main):031:0> x * y => Numo::DFloat#shape=[3] [2, 8, 18] irb(main):032:0> x / y => Numo::DFloat#shape=[3] [0.5, 0.5, 0.5] irb(main):033:0> x / 2.0 => Numo::DFloat#shape=[3] [0.5, 1, 1.5]
こちらも NumPy と同様で、ブロードキャストも同じように行われています。
Matrixでは下記のようになります。
irb(main):004:0* x = Matrix[[1.0, 2.0, 3.0]] => Matrix[[1.0, 2.0, 3.0]] irb(main):005:0> y = Matrix[[2.0, 4.0, 6.0]] => Matrix[[2.0, 4.0, 6.0]] irb(main):006:0> x + y => Matrix[[3.0, 6.0, 9.0]] irb(main):007:0> x - y => Matrix[[-1.0, -2.0, -3.0]] irb(main):008:0> x * y ExceptionForMatrix::ErrDimensionMismatch: Matrix dimension mismatch from /usr/local/rbenv/versions/2.3.1/lib/ruby/2.3.0/matrix.rb:966:in `*' from (irb):8 from /usr/local/rbenv/versions/2.3.1/bin/irb:11:in `<main>' irb(main):009:0> x / y ExceptionForMatrix::ErrDimensionMismatch: Matrix dimension mismatch from /usr/local/rbenv/versions/2.3.1/lib/ruby/2.3.0/matrix.rb:1062:in `inverse' from /usr/local/rbenv/versions/2.3.1/lib/ruby/2.3.0/matrix.rb:1049:in `/' from (irb):9 from /usr/local/rbenv/versions/2.3.1/bin/irb:11:in `<main>' irb(main):010:0> x / 2.0 => Matrix[[0.5, 1.0, 1.5]]
配列同士の乗算と除算では、ErrDimensionMismatch が発生してしまいます。Matrixの場合、行列同士の乗算は単純にそれぞれの要素同士を計算するのではなく、行列の積の演算になるようなので、次元数が合わずにエラーになっています。
instance method Matrix#* (Ruby 2.4.0)
除算については逆行列に対しての乗算になるようで、逆行列を求めようとしているところで同様にエラーになっています。
instance method Matrix#/ (Ruby 2.4.0)
N次元配列
NumPyでのN次元配列の生成と演算は下記のようになります。
>>> A = np.array([[1, 2], [3, 4]]) >>> A array([[1, 2], [3, 4]]) >>> A.shape (2, 2) >>> A.dtype dtype('int64') >>> >>> B = np.array([[3, 0], [0, 6]]) >>> A + B array([[ 4, 2], [ 3, 10]]) >>> A * B array([[ 3, 0], [ 0, 24]]) >>> A * 10 array([[10, 20], [30, 40]])
一次元配列の時と同様に、行列同士の演算、もしくは行列と単一の値での演算が行われます。行列の形状は shape メソッドで参照しています。
次に Numo::NArray での例です。
irb(main):034:0> A = Numo::NArray[[1, 2], [3, 4]] => Numo::Int32#shape=[2,2] [[1, 2], [3, 4]] irb(main):035:0> A.shape => [2, 2] irb(main):036:0> irb(main):037:0* B = Numo::NArray[[3, 0], [0, 6]] => Numo::Int32#shape=[2,2] [[3, 0], [0, 6]] irb(main):038:0> A + B => Numo::Int32#shape=[2,2] [[4, 2], [3, 10]] irb(main):039:0> A * B => Numo::Int32#shape=[2,2] [[3, 0], [0, 24]] irb(main):008:0* A * 10 => Numo::Int32#shape=[2,2] [[10, 20], [30, 40]]
NumPyと同様の演算が行われます。shapeメソッドも同様に用意されています。
Matrixでは下記のようになります。
irb(main):016:0* A = Matrix[[1, 2], [3, 4]] => Matrix[[1, 2], [3, 4]] irb(main):021:0> A.row_size => 2 irb(main):022:0> B = Matrix[[3, 0], [0, 6]] => Matrix[[3, 0], [0, 6]] irb(main):023:0> A + B => Matrix[[4, 2], [3, 10]] irb(main):024:0> A * B => Matrix[[3, 12], [9, 24]] irb(main):025:0> A * 10 => Matrix[[10, 20], [30, 40]] irb(main):026:0> A.column_size => 2 irb(main):027:0> A.row_size => 2
前述の通り、Matrixの乗算は行列の積になるので、NumPyとNumo::NArrayとは結果が異なっています。配列の形状を参照するためのメソッドは用意されていないようですが、 row_size, column_size メソッドで行と列の値をそれぞれ取ることはできるようになっています。
要素へのアクセス
NumPyでの行列の要素へのアクセスの例は下記のようになります。
>>> X = np.array([[51, 55], [14, 19], [0, 4]]) >>> X array([[51, 55], [14, 19], [ 0, 4]]) >>> X[0] array([51, 55]) >>> X[0][1] 55 >>> for row in X: ... print(row) ... [51 55] [14 19] [0 4] >>> X = X.flatten() >>> X array([51, 55, 14, 19, 0, 4]) >>> X[np.array([0, 2, 4])] array([51, 14, 0]) >>> X > 15 array([ True, True, False, True, False, False], dtype=bool) >>> X[X > 15] array([51, 55, 19])
通常の多次元配列と同じようにインデックスを指定してアクセスすることができます。さらにインデックスとして配列を渡すことによって、複数の要素を指定することもできます。NumPyの配列に対して不等号などでの演算を行うと、Booleanの配列が生成されますので、それをインデックスとして渡すことで、Trueに対応する要素のみ抜き出すこともできます。
次に Numo::NArray での例です。
irb(main):042:0* X = Numo::NArray[[51, 55], [14, 19], [0, 4]] => Numo::Int32#shape=[3,2] [[51, 55], [14, 19], [0, 4]] irb(main):043:0> X[0] => 51 irb(main):052:0> X[0..X.shape[1]-1] => Numo::Int32(view)#shape=[2] [51, 55] irb(main):055:0> X.to_a[0] => [51, 55] irb(main):059:0> X.slice(0, 1) => Numo::Int32(view)#shape=[1,1] [[55]] irb(main):074:0* X.each do |row| irb(main):075:1* puts row.inspect irb(main):076:1> end 51 55 14 19 0 4 => Numo::Int32#shape=[3,2] [[51, 55], [14, 19], [0, 4]] irb(main):077:0> irb(main):078:0* X.to_a.each do |row| irb(main):079:1* puts row.inspect irb(main):080:1> end [51, 55] [14, 19] [0, 4] => [[51, 55], [14, 19], [0, 4]] irb(main):088:0> X = X.flatten (irb):88: warning: already initialized constant X (irb):42: warning: previous definition of X was here => Numo::Int32(view)#shape=[6] [51, 55, 14, 19, 0, 4] irb(main):089:0> X => Numo::Int32(view)#shape=[6] [51, 55, 14, 19, 0, 4] irb(main):090:0> X[[0, 2, 4]] => Numo::Int32(view)#shape=[3] [51, 14, 0] irb(main):091:0> X > 15 => Numo::Bit#shape=[6] [1, 1, 0, 1, 0, 0] irb(main):092:0> X[X > 15] => Numo::Int32(view)#shape=[3] [51, 55, 19]
Numo::NArrayの配列は、NumPyの配列とは違ってインデックスを指定すると全要素に対してのインデックス指定となります。なので、ある行の要素を指定したい時には、明確にどこからどこまでの要素かを指定するか、通常の配列に変換した上で行数を指定する必要があります。ある特定の要素を指定するには slice メソッドが利用できます。eachでの参照でも同様に各要素が参照されるので、行ごとに参照したい時には通常の配列に変換後にeachで参照するなどの工夫が必要そうです。不等号等での演算については、結果がBooleanではなく1か0での配列として返されますが、NumPyと同様に扱うことができます。
最後にMatrixでの例です。
irb(main):052:0> X = Matrix[[51, 55], [14, 19], [0, 4]] => Matrix[[51, 55], [14, 19], [0, 4]] irb(main):060:0> X.row(0) => Vector[51, 55] irb(main):061:0> X.row(0)[1] => 55 irb(main):078:0> X.each_slice(X.column_size) do |row| irb(main):079:1* puts row.inspect irb(main):080:1> end [51, 55] [14, 19] [0, 4] => nil
Matrixの行列に対して行を指定して参照するには row メソッドを使用します。単一の要素を指定する場合も、通常の多次元配列のような参照はできないので、row で行をVectorとして取得してからインデックスを指定します。eachでの参照については Numo::NArray と同様なので、通常の配列に変換してから each で参照するか、 each_slice で要素数を明示して参照するなどの工夫が必要そうです。また、flattenメソッドや、不等号での演算には対応していないようです。
ここまで試した限りでは、Rubyで行列の演算をするにはひとまず Matrix よりも Numo::NArray の方が便利そうなので、書籍を読み進めつつ、 Numo::NArray 中心にRubyでの実装を試してみたいと思います。